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空音の日句帖

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2010年1月2日 信濃かな雪降る里と月の町
2010年1月3日    ある派遣労働者
「死にたい」と上向く初老缶の街
2010年1月7日 裸木で背を掻いている広野かな
歯が取れる雪の雫のぽたぽたぽた
2010年1月11日 箱の街の影の人々冬陽射す
2010年1月12日 雪原や大きな零(ゼロ)が描いてある
2010年1月13日 冬薔薇死に近き義母(はは)は情くしゃくしゃ
2010年1月14日 義母(はは)逝くに明るい冬の川原かな
2010年1月16日 自我という暗き穴蔵雪深し
2010年1月31日   裏の婆様逝く
安らかなり地の遺骨(こつ)天の冬満月
2010年2月5日 (うみ)と抱く踏絵の娼婦ありにけり
2010年2月6日 青い春雷(らい)の命もころがるよ
愛妻は滑稽でもある春の風邪
2010年2月7日 もの言われ余寒の闇を見つめいる
2010年2月8日 煌煌と地下男(ちかお)が怒鳴る冴返り
2010年2月16日 母よ母よ地の糸杉が痛すぎる
2010年2月17日 煮凝や宇宙(せかい)まず暗澹とせよ
2010年2月18日 たまに来る鬱毎年やって来る萌え
2010年2月19日 鬱とみれば鬱霧とみれば春の霧
春愁やトイレ紙白く舌を出す
2010年2月20日 単単単単純単単雨水なり
2010年2月21日 死と言えばこの小豆善哉の旨さよ
2010年2月23日 おずおずと撫す手やわらか春の光
2010年2月24日  安曇野
雪山見えてヌードのように早春
2010年2月27日 もともとの君は無音の福寿草
2010年3月2日 彫像「考える人」にちょうちょ
2010年3月4日 生まれてみれば苦汁も混じり蜆汁
2010年3月11日 荘厳だパイプオルガン雪の壁
2010年3月12日 迷うなあ眼鏡いくつも持っている
2010年3月14日 淡雪 午後三時の妻の祈り 
2010年3月16日 花ミモザ光の子等のあそぶ
2010年3月18日 君は菜の花闇夜の風に散り乱る
2010年3月22日 うれしくて山野ころがる春の雷
2010年3月29日 早春の雨ふりそそぐ木々に熱
2010年3月31日 春の瀬は明るく哀し遊びとや
2010年4月1日 突然に歌いだす女(ひと)春の月
2010年4月2日 春嵐その朝壁が落ちていた
2010年4月8日 啜る刻(とき)蝶は涅槃にふるえる
ごとり天体いやいやこれは菫草
2010年4月9日 じゅわじゅわと水の体か春山は
山羊のようなうんちばかりの春進む
2010年4月10日 愁いかな妻ヒヤシンスにしゃがみこむ
緋と黒の布きれ綺麗が句にならない
墓守になりたし桜花の空の碧深く
シーシェパードに見られてるかも木を倒す
2010年4月13日 春の日に変なポーズの木を見ている
2010年4月22日 痩せ過ぎの五体投地や蜃気楼
2010年4月26日 合掌して木を伐り倒す山の人
2010年4月28日 枯れて明るく澄むということ竹の秋
2010年4月30日 体疲れて体か砂か春月見え
2010年5月3日 菜の花や読み終らない本のよう
2010年5月7日 父病みぬ吾(あ)はだんだんと裸かな
病む父やごろんだんだん木の仏
2010年5月10日 うみやまかけて手足を伸ばす夕日かな
2010年5月11日 世は悲しゆえに汝は野の茨
2010年5月13日 健康がいいな葉桜桃の花
2010年5月18日 初夏落日我が影美しと誰に言おう
2010年5月19日 我が影や茂りに映るまた逃げる
2010年5月23日 片隅にちっちゃくちっちゃく花菫
夜の蛙よよとよよよと鳴くばかり
犬槐芽吹けば宇宙漂流す
2010年5月24日 走り梅雨友の訃報と足の冷え
2010年5月24日 君達は何て平和な朝の藤
2010年5月29日 満ち足りて眠るがごとき昼の藤
陽に疲れ夕藤だらりだらりかな
不思議なきごとく吾(あ)を見る狐かな
2010年5月30日 伸びきって俺の天下だ夏の猫
2010年5月31日 どでかい猪(しし)と夢の車道で出会いけり
でかい猪夢で出会うは何の意ぞ
遅春の土のうながし種放つ
2010年6月4日 桃の花はらはらふうわり破れ蝶
2010年6月5日 蟻群れのぼり来 ひえまだ死んじやいねえ
2010年6月7日 時鳥聞いて喜ぶ安上がり
鴉なぜ鳴くわが老体の渋り腹
2010年6月10日 また会った黄菖蒲黄菖蒲せいれつ
夜濯ぎの好きな女房麦熟れ星
2010年6月11日 白い猫跳べば生まれる白い蝶
屋根から眺(み)れば隣のよっちゃん夏の蝶
2010年6月18日 家中が青葉闇なる古家かな
2010年6月19日 きらさらきらさら西日と遊ぶ花すいば
2010年6月20日 せつなしアカシア人居ぬ河原に咲かねばならぬ
臨戦だ人参全部蒔き直し
抱くほどに夕陽がくれし焦れかな
2010年6月25日 神鳴や馬鈴薯ごろごろ太りゆく
骨炎える光散乱西日射す
雲水は小さし遠蝉時雨の彼方
2010年7月1日 黒南風がシャツ一枚の俺の海原
2010年7月7日 山居すればおふくろのよう栗の花
夏茱萸をみんなで食べる葬儀かな
梅雨しとしと山あじさいは淑(よ)き女(ひと)
2010年7月9日 浮き沈むまた浮き沈む茂りの蝶
2010年7月15日 燦々とキャベツの太る大地かな
2010年7月19日 夕刻やひぐらし階段下りてくる
2010年7月20日 汗じわりぽとぽとだくりだくり夏
浮き草に空まる見えの自由あり
2010年7月21日 ペンキ塗る暑い熱いと屋根の上
2010年7月25日 花合歓の下を通って本借りに
2010年7月26日 腕だらり小便だらり夏の月
2010年7月27日 鬼薊見て顎に指当つ知の女
希望とは蜩が鳴いているだけ
2010年7月29日 妻の黙われは尺取虫になる
晩夏光畠に影と二人きり
2010年8月2日 闇を愛すむぐらもぐらの真昼どき
朝の森かなかなかなと炎えていた
2010年8月7日 これも祈り汗だくだくと杭を打つ
2010年8月15日 君は傍らにいつもいて赤い百日紅
2010年8月18日 赤裸裸な眼で見ているよオクラの花
おのころ島へ大根の種落ちてゆく
2010年8月23日 黒揚羽胸元過ぎて片陰に
句はいのちへの恋文か日日草
2010年8月27日 青大将妻と出会ってびっくり
2010年9月2日 沈黙の草刈あまりに永い夏
地を抱いて死ねばいいのだ永い夏
永い夏夜空に飛機の孤影あり
熊や猪(しし)暴れ止まない永い夏
2010年9月3日 唾も汗も地に突き刺さる永い夏
2010年9月9日 鎌を研ぐ腕に夕日を包むよう
2010年9月12日 山畠に秋思を捨てて一茶に礼
2010年9月21日 赤ピーマン夢の捕獲器かも知れぬ
2010年10月1日 抱けとこそ光りおるなり秋の土
2010年10月4日 麦蒔きに酔い空腹に酔い入り日
2010年10月7日 僕がいる 銀河横丁字肥溜
2010年10月15日 海月いわく僕の夕日は沈まない
2010年10月19日 秋天に一つ呟く女の顔
2010年10月22日 七竃空色の眼のソーニャ
2010年10月23日 やけに顔撫ぜているあっ晩秋
2010年10月24日 あらゆる死の堆積の土秋光る
熱き血が流れてるはず紅葉めく
2010年10月29日 木枯の噂ざわざわ菜達ざわざわ
黙の木あり黙の私を手招きせり
牛蒡掘って掘って夕日の冷まじや
晩秋の妙にきれいな雨の線
2010年10月31日 にこやかにぎやか鳥の木鳴いている
2010年11月5日 おお朝焼け紅葉木(もみじぎ)も吾も影なり
マンモスの脚に入り日や秋の原
2010年11月6日 はみ出っ子晩秋の濃き影になる
オリオンが山に寝そべる頃寝ねし
霧の国桜樹は王であった
2010年11月11日 両の掌(て)で包む仕草の冬の女(ひと)
2010年11月13日 人間が苦しんでるよ紅葉黄葉
2010年11月17日 菜にうす雪妻はしばしば笑う人
2010年11月19日 冬麗やナスカのハチドリ響きけり
2010年11月20日 君の名は霜月しののめ一つ星
陽に落葉泣きや笑いの向こう側
2010年11月20日 朝焼けに腹がへったと言う初冬
2010年11月27日 平均律月の光に枯枝に
2010年11月29日 点のいのち満ちて祈りに冬銀河
2010年12月4日 父病めり枯原のごと銀のごと
2010年12月5日 鯛焼を両掌(て)に包む家路かな
去り行くや枯野に一つ冬帽子
2010年12月6日  宮沢賢治
賢じや行く妙法蓮華冬の道
玄冬の峠に叫べ叫べ叫べ
2010年12月9日 曇り日の枯葦原のかさこそ語
2010年12月11日 少しは羞じらいやって来ました雪女
2010年12月15日 冬星一つ屋根を転がる淋しかろ
2010年12月18日 妻は階下に眠りを結ぶ冬の蝶
2010年12月18日 病父眠るこんと雪野が眠るよう
2010年12月20日 雪原は見ていないとき花野かな
2010年12月21日 食欲よ露の世ながらさりながら
2010年12月25日 寒酒に映る月より平均律
2010年12月26日 雪なんか一つもいらねえ野良猫どん
2010年12月28日 ほのかなる碧(あお)のしじまに雪を掻く







俳諧寺