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空音の日句帖  

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2008年1月1日 ハングリーと言いながら大きく冬日吸う        
雪の中いのち一粒小鳥の声
静まれば雪のいのちが横たわる
雪のいのちで子供遊ばす狐かな
雪ふるから妻は小栗鼠になりました
2008年1月2日 薔薇のごとく笑い大きく冬日吸う
2008年1月6日 子どもらは雪のいのちと遊ぶかな
2008年1月9日 泥の葱剥けばたまちる氷の刃
2008年1月11日 ふうふう吹くゆえに我あり冬の朝茶
2008年1月12日 我が中の無氷の海域孤独の白熊
2008年1月17日 煮凝や思考に落ちる癖がある
2008年1月18日 冬の階段のぼりくだりの野の光
冬のさすらい薄目の散歩長かりき
白雲行く無氷の白熊見上げたり
2008年1月19日 土間の葱冬の朝日に眼を細む
2008年1月22日 妻の留守粥好きだんだん粥になる
2008年1月23日 雪がふる耳遠くなる雪がふる
2008年1月24日 用足してから素敵に沢庵漬を切る
2008年1月25日 吹雪のち少し朝焼け今日はじまる
樅の木のある家樅は誇りなり
2008年1月26日 大寒のくしゃみ鼻血となりました
逃げるもんか大寒の空に立つ
2008年1月28日 大寒の小さな腕時計
冬透明一人猫居て頭掻く
2008年1月31日 冬の原唄う「私は死を知らない」
2008年2月1日 機器の上猫乗り鳴くや冬麗し 
2008年2月3日 怨念のごと祖母福は内福は内
2008年2月9日 もうすぐ春コーヒー缶をぺこぺこ鳴らす
2008年2月12日 春の海のたりのたりとわが家かな
2008年2月13日 怒りの顔が薔薇と咲くのを見とどけたし
2008年2月24日 雪下ろす雪の体は力士のよう
2008年2月26日 春隣小便の音の微光かな
2008年2月28日 ガラス片にくちびる冬夕焼
春の吹雪は桜色帯ぶなぜだろう
2008年3月1日 赤丸黄丸青丸おぼろ夜の街
2008年3月7日 海老蟹や少年と夕日の化石
2008年3月9日 貧しきかな竹林に春の夕日射す
2008年3月12日 春の石誰も言わないことがある
2008年3月13日 便所にて妻と遭遇きさらぎや
2008年3月17日 鰈の骨透明きさらぎの妻も
2008年3月23日 朝はじまるあーおあーおと猫の恋も
2008年3月24日 春の雨淋し猫の足引っぱっている
2008年3月25日 股ひろげたり舐めたり自在春の猫
2008年4月7日 春光や耕やし人(びと)に降りそそぐ
亀が鳴く妻と罪と罰の話
2008年4月14日 肥溜と水仙美(は)しき対比かな
2008年4月15日 春の馬穴走りまわるよ風の中
2008年4月17日 囀りや小猫見上げる朝の空気
2008年4月20日 固そうな辛夷の木から白い花
2008年4月22日 狂い散れ君は優しいのだ桜
妻と入る東一華の山静か
東一華を『死の家の記録』に挟む
2008年4月23日 肩のあたりが春満月に金縛り
2008年4月24日 うちのパンですおいしいですよ花の下
2008年4月28日 土に落ちし花弁の微震歓喜天
少年の夕日化石になっている
2008年4月29日 妻とする酵母の話春深し
2008年5月1日 御褒美としてゆったり春の煙草吸う
花の下おっと肥溜近くかな
2008年5月2日 桜菩薩といいにけるかな土の人
夕桜ありやなしやのわたしかな
2008年5月3日 落花浴ぶ肉は土塊のごと疲れ
2008年5月5日 (ぬえ)鳴く季節となりにけるかも永遠
男体は女体より出づ花は葉に
2008年5月6日 山畠に耕人沈む陽は燦燦
夕日の丘で夕日の風呂に入りけり
2008年5月10日 ちょこまかちょこまか厨畑と春の妻
2008年5月15日 真夜中にバナナを喰むも初夏の艶
空腹で眠れないかも蛙の夜
生は聖栗は芽吹くよわいわいと  
2008年5月15日 山の上湯あがり顔の夏の月
2008年5月18日 躑躅燃ゆ燃ゆ預りしもの大事
2008年5月20日 おいお前俺の体よ芳草よ
2008年5月21日 婆の噺ぬめぬめ赤い夏の月
2008年5月23日 待つという祈りの形藤房濡れ
2008年5月24日 夜蛙の余韻身に帯び墨を磨る
2008年5月25日 ある日ニートバイクと化し躑躅の風と化す
2008年5月26日 桐の花電話のことを思い出す
くよくよするなよ桐の花藤の花
2008年5月29日 漂泊や鉄柵の鴉田の鴉
2008年6月2日 偽瓢虫(てんとうむしだまし)を殺すわたしは土の夢
2008年6月8日 妻怒る泉辺の草ざわざわざわ
2008年6月17日 緑夜ひとり老父(ちち)のハモニカしんかんと
義母の痴呆進む
「帰りたい」うつせみの老母(はは)言い給う
2008年6月22日 泣いて泣いて白花ムラサキツユクサの花
2008年6月26日 山法師呼んでいるから欲ばらない
2008年6月29日 蛍袋の小さな戦き人と会う
2008年7月1日 おろおろうろうろ優しい男瓦礫の蟻
2008年7月4日 神話のごと白蝶白猫戯れやまず
山紫水明ひかりの屑やほととぎす
2008年7月5日 こいつあ空木だほら中が虚ろだろ
2008年7月7日 知らない方へ三叉路を行くどくだみの花
2008年7月14日 他人(ひと)の死におろおろと居る汗男
2008年7月18日 驟雨降れ野に佇つ我をえぐり給え
2008年7月22日 暁闇だけ鳴くひぐらしの在りにけり
2008年7月24日 眠いといえば凌霄かずら首肯きぬ
2008年7月30日 命賭ければいのちを得るや蝉時雨
2008年7月31日 詩を待つは祈りにも似し茄子の花
2008年8月3日 竹似草には銀漢がよく似合う
2008年8月5日 朝っぱらからアイスコーヒー朝蜩
2008年8月7日 黄瓜の花を平凡という平凡
2008年8月8日 歩く足だんだん花野になってゆく
思わずも汗は花野に落ちにけり
夏草の花粉地帯は火照る火照る
2008年8月9日 ぶら下がり通せ落ちるな夏の月
2008年8月11日 一番きれい一番に見た葛の花
2008年8月14日 秋の野の立ち小便十字架型に澄む
2008年8月15日 夏果(ば)てやはたたの神も幽かなる
2008年8月24日 己からの自由という語穴惑い
2008年8月25日 白壁に木槿の花壊れている
秋の暮木は鳥を喰いめでたしや
2008年8月30日 露の世を飛機は静かに渡りけり
2008年9月3日 怒れば蜂等シャンデリアのようだな
2008年9月7日 眠り足りない悲しさの国草の実飛ぶ
2008年9月15日 合唱あり合掌もある秋の声
秋桜の光抱いて私は風
2008年9月17日 遊びとや無月ときどき望の月
2008年9月21日 秋の日は山の畑を躄るかな
2008年9月22日 センチな月だ米と涙が一粒づつ
胡桃降る川の長さと歩くとき
曇り日の脳天を撃つ胡桃の実
嬉しさは木の実降る日の散歩道
2008年9月30日 ときどきはとても疲れて紫苑の花
秋桜に雨が降る日を眠るかな
2008年10月3日 紫苑に蜂等その日だまりの煮つまるよ
晩秋や眠ければ寝る自然かな
2008年10月12日 あけび無き虚空地には猿の糞
2008年10月15日 おおっぴらに案山子と雀議論する
伏す前に言っておきたい案山子かな
2008年10月17日 青とピンクの顔笑い歩く晩秋
生を祝し生を弔う紅葉かな
祝祭のごとく栗達盛られおる
2008年10月18日 生死という神話の中の紅葉且つ散る
2008年10月19日 秋の捨て猫妻の外出頻繁なり
2008年10月20日 この道は紅葉の中に消えている
2008年10月26日 甘ったれな猫と居て秋は過ぎゆく
2008年11月2日 鳩麦やじいちゃんばあちゃんお天道さん
落花生育む土の情感かな
2008年11月7日 政治家の口曲りしままに冬
2008年11月11日 梟やあったかい闇の声
2008年11月13日 お天道様に遠慮はいらない着膨れろ
2008年11月14日 農人は小春は愛撫してやまぬ
2008年11月15日 枯葉よ標高七百六十五メートルのシャンソン
枯れの中青草もある晩年感
2008年11月17日 とぼとぼと行く奴もいる神の旅
2008年11月23日 毛糸編み彼女荒野へすべりだす
焼藷やほっぺ小僧の神います
2008年11月29日 冬ざれの萎びた木の実ほどの企み
2008年11月30日 いつも小窓慈光を帯びし冬の雨
布団から布団への旅人の旅
2008年12月1日 風花や愛(いと)し愛(かな)しとうろつくよ
2008年12月5日 冬空をすべる鳥たちすべるため
白菜を炒めておれば透明に
2008年12月6日 ソクラテスの髭か枯草に強き霜
涙のごと熱き尿(いばり)を強霜に
2008年12月13日 冬日とは小さな小さな翼かな
血管外科医の診断冬川はしゃぎおり
2008年12月27日 雪が降るわっせわっせと祭だな
2008年12月29日 未成年泣けるや夜の蜜柑山
  







俳諧寺