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空音の日句帖 

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印は「海程」出句
2006年4月24日 虎鶫の声しんかんと薄明の寝床

目白来し朝いつものようにパン食

初音聴きつつ立ち小便の嬉しさよ

2006年4月25日

花を待つ山国水音の繁し

四月の霙妙に明るくすぐ止みぬ

2006年4月26日〜28日

池田町広津平畑の家にて

花曇り空の奥には飛機の音

なだめなければ時々止る耕耘機

小農に梅咲き畑は斜めだなあ

囀消え鍬音のみが残る夕

冷えた体という即身仏を湯に沈む      

目には青葉山ほととぎす墓は去来

広津の今朝は連翹の黄から始まる

春暁(はるあかつき)男は雲を撮っていた   

2006年4月29日 水道の雫の韻律春は曙
2006年4月30日 行く川や耕しているから後で
2006年5月1日

(と)に出れば朝の木蓮迎えるかな

春の耕休めば川音聞こえ来る

春雷あり妻との長い話もあり

2006年5月2日 猫だけが纏り付く日春寒し
2006年5月3日 茎立菜食える頃かと見遣りつつ

安売りの不味い紅茶に春うらら

犬ふぐりその青色は空の記憶

2006年5月4日

無為の為と五月四日は過ぎてゆく

二時か三時くらいだろうか山桜

2006年5月6日  本名は春彦
父母の付けし名嬉し散歩道

佐保姫と春彦と犬春の中

できましたほー法華経と鳴けました

蒲公英の集まっている流人墓地

2006年5月8日 朝の日はまずは桜に宿りけり
2006年5月9日 花びら離れゆっくり未生の地へ向う    

花びらのこぼれつづける梢かな

2006年5月10日 落花散り敷くサニーレタスを間引くかな

 「海程」の選句をして
ときどきは風鈴の鳴る選句かな

2006年5月11日 三つ葉芹鼻に押し当てつつ帰る

満月は芳草の餌かも知れぬ

2006年5月12日 鬱の風春肥の風にまざり込む

天日(てんじつ)や蟻に対して殺意湧く

2006年5月13日 朝から雨種蒔くことも今日はできまい

仕事休み雨の中にはチューリップ

2006年5月14日 行く春や婆様畑に一人だけ

大きい新樹体揺らせば川の音

人間は幼かりものみな青む

2006年5月15日


糖尿病にて節制の過ぎることあり

朝早しぐっしょりとした青き踏む

鬱の一日蝶は確かに舞っていた

空腹は鬱の元なり韮雑炊

一日が遥かなりけり蛙の夜

2006年5月16日〜18日

池田町広津の家

肉体の疲れに蛙のカロロカロロ

新緑の山迫るかな墓石群

雉の声一つ残りてあとは雨

 草刈り機、薇はカラスノエンドウ
草刈の轟音の黙薇は美なり

新緑や雨のキリスト雨の午後

2006年5月20日

野菜の芽にもわれにも五月の風

走り梅雨種蒔く止めて俳書読む

走り梅雨茗荷の親も出る頃か

2006年5月21日 ぬくきもの土とつとつと播きゆけり

隣の屋根が好きな頬白今日も居る     

2006年5月22日 蒲公英の二輪三輪真の友

緑陰の風雅の技法という戯れ       

2006年5月23日 朝の書斎に熊蜂来るや戦いぬ

藷苗を買いに口笛吹きながら

2006年5月24日〜26日

池田町広津の家

青葉若葉の密になりゆく命かな

ペンキ塗るや屋根も水田も照るよ照る

短夜の黒丘陵這う広津かな

ガジュマルのフォトあるトイレ沈潜す

夏木立ざわざわっとして鍬光る

2006年5月27日 陽炎や村人二、三話しおり
2006年5月28日 雨上がり風に浮遊す朴若葉

その空が新しかった栗若葉

亀虫は紙に包んで潰すべし

2006年5月29日 掃除機なり妻豪快に亀虫捕る

曇天の偽瓢虫(てんとうむしだまし)の捕殺

鴛鴦一羽水尾を残して植田翔つ

わき上がる蛙楽の夜のはじまり

えんえんとお喋り夜の蛙達

蛙の夜音を観ずる菩薩在り

2006年5月30日 土間の明るさ身ぬちに有りて五月尽
2006年5月31日 宝石の五月三十一日だ

光まぶし五月を惜しむこともなし

藤の花乳房男根みな垂れる

2006年6月1日 地の熱気どこかに蝦夷春蝉の声

青大樹もくもく動く銀河系

2006年6月2日 夏曙バタ付き麺麭を頬張る吾

夏曙小便柔し草柔し

新聞に包みし古葱頭(ず)をもたげ

土蜘蛛は卵を抱いて逃走せり

2006年6月3日

松本へ(みちのり俳句会、ひなたぼっこの家)

整列する野菜たちかな初夏の朝日

ルート19左折する時風薫る

晴れた日のニセアカシアの孤独かな

裏街の青水無月のうたた寝

2006年6月4日 大蟻がパソコンに来て調べおり
2006年6月5日 この頃や蝦夷春蝉の笑い声
2006年6月6日 著莪の花放浪は終ったと思う

蝦夷春蝉わが群肝の笑うかな

風を待つ絮蒲公英のたじろぎ

2006年6月7日 杜若過ぎてからまた振り返る

眼の中に西日も天道虫も遊ぶ

2006年6月8日 対岸に白花わが夏影は此岸にあり

梅雨雲を背に人参を間引きけり

猫探す妻むしかりの花抱き帰る

山法師飼猫は消えてしまった

消えた猫その夜蛙(かわず)ら強く鳴く

2006年6月9日 消えた猫夜雨朝雨梅雨に入る

梅雨濡れの緑のはるか猫のヨウヘイ

2006年6月10日 遠蝉や猫は今だに帰らない

新緑の移動図書館車ハートマーク

2006年6月11日 日曜日雨ときどき昼寝覚
2006年6月12日 「良ーし良ーし偈偈偈」と笑う蝦夷春蝉

麦の花あたりいちめん胎に見える     

2006年6月13日 天つ下土蜘蛛と吾(あ)との戯れ
2006年6月15日 薄曇る苺を摘みし遅き朝

午後三時雨風少し白あやめ

2006年6月16日 屋根裏に来れば聞こえる梅雨の音
2006年6月17日〜18日

平畑の家

つばくらめ地上に下りてつばめたち
2006年6月19日 日の光喪の家の黄花白花

沈黙の慟哭喪の家の白い花

死とは何知ってるふうの空蝉達

五月雨を集めて流せ体内に

我は川行方知らずの五月川

2006年6月20日 喪の家や双蝶の光の静か

フランス菊死んでも婆は友達       

2006年6月21日 葬の朝著莪寄添いて静かかな

葬の間のひそひそ話著莪の花

蜜蜂のうつつの夏の読経かな

2006年6月24日 夏真昼うつつの蝶ののぼるかな

眼つむれば夜が真っ黒葱坊主

2006年6月25日 蝶あまた遠く樹に群れ古郷のよう
2006年6月27日 梅雨曇りラベンダーらも眠たかろ

猫消えて猫の山河や梅雨しんしん

肩幅でゆっくり歩く麦の秋

2006年6月28日 野薔薇野薔薇通り過ぎたのは誰      
2006年6月29日 山道に猿の大糞(ぐそ)真夏なり
2006年7月2日 梅雨の墓その傾きが親しき
2006年7月4日 栗の花川音なども聞こえる
2006年7月7日〜8日

「俳句王国」出演のために松山へ

我が中に虎鶫鳴く山のあり

夏の旅飛機の記憶はかさぶた

昔から端居が好きで山住まい

少年に塀高くあり花石榴

2006年7月9日 山の朝鵺(ぬえ)の声ほのかに白き
2006年7月10日 バス過ぎ去るぽつんと一人夏の畑(はた)  
2006年7月11日 死者の家包む如くに夏木立
2006年7月16日 「こういう事が死ぬまで続くんだろうかねえ」と梅雨の妻
2006年7月19日 屋根裏部屋から梅雨の階段降りてゆく

梅雨の階段ふと考えてまた上る

梅雨晴れ間とろり陽の色とろり熱

2006年7月20日 蚰蜒(げじげじ)を弾くや己(おのれ)覗き込む

初蜩遠くに希望のごとく鳴く

2006年7月21日 地球大事命大事と梅雨豪雨
2006年7月22日

高崎

故郷の路地は小さく夏の空

古川の古藻は長く長くあり

空蝉を持つごと父の車椅子

夏深くはらから達は又散りぬ

2006年7月26日

池田町安曇病院のデイケア俳句会に行く

一人来し竹煮草咲く峠道

峠道越えて先ず逢う月見草

峠越えスピード上げる夏野かな

真青なる紫陽花も見ゆ白馬村

青木湖の夏右に見て通り過ぐ

夏川のはしゃぎまわるや安曇郡

句会終り紫陽花をちょいと撫でるかな

2006年7月27日 腐れ薯溝に落ち居て梅雨光る
2006年7月29日 凌霄下白猫笑う浄土かな

昼ひぐらし妻は悲しいことがある     

死は薄き皮膚ある如し夕ひぐらし

2006年7月31日 忘れいし自然に出会う濃草(こぐさ)かな
2006年8月1日 ぽっちゃん便所すなわち厠蝉が鳴く
2006年8月2日 ひぐらしの音のみ残るひと日かな
2006年8月4日 葉騒ぎもとどかぬ遥か蝉の声
2006年8月5日

みちのり俳句
ひなたぼっこの家

サングラス外せ木々の命を浴びるため

思いっきりばっさり鋭く西瓜割れ

帰省せぬ子らそれぞれ東京物語

2006年8月6日

池田町平畑

濃き緑山裏山は我が誇りなり
2006年8月8日 静かなる言葉の洪水蝉時雨

猫の死を尊敬している夏の山       

2006年8月9日 向日葵は淋しい光る墓石に          

蕪村翁の山家の煙夏の月

2006年8月11日 炎昼の山畑は胎耕せり

憎憎し唐黍畑の猿の糞(くそ)

尿よりも濃き黄蝶足下過りけり

2006年8月13日 初秋や小猫の傍で疲れている
2006年8月15日 気持ちよい一人の朝やオクラ咲く

強烈に酔うこともあり麦の花
           註 6月12日の句の別案

2006年8月16日 二千六年初秋禿頭に星の雫
2006年8月17日 人間の原型ということ小豆引きながら
2006年8月18日 オクラの花ずいぶん醒めているようだ
2006年8月19日 夕焼や大人になりたくないと思った日
2006年8月21日 鴉の声遠くに甘い昼寝かな
2006年8月23日 逃げもせず野良猫(のら)伏し黙す「・・もういいや・・」
2006年8月25日 音と色の小さな宇宙小豆剥く
2006年8月26日 五メートル先コオロギの渚かな
2006年8月27日 蜜に蝶厚き晩夏は死の如し
2006年8月29日 湯を注ぐ時蝉時雨高まりて止む

昼寝から目覚めし時や見事な蝶

2006年8月30日 捨て葱と禅問答する俳句馬鹿

青栗落つ続く海山(うみやま)物語

2006年8月31日 白猫の鼓動音掌(て)に白い秋
2006年9月1日 秋の朝人間は死を恐れる

白露に小便をする生身かな

どっと秋山国なんだなあと思う

2006年9月2日 秋深まり我が生はある種空腹感

少年と少女の間ねこじゃらし

2006年9月3日 地下足袋や土から生まれ土に還る
2006年9月5日 青北風やほとほとわれは生きてあり
2006年9月6日 邯鄲や夜通し鳴いてまだ鳴くよ

裏の婆ダイナミックに露の中

2006年9月10日 秋というひろびろとした空間で待つ

義母の秋 どうしてわたしここにいる

2006年9月11日 霧の山われは眠らん夜明けまで
2006年9月12日 秋霖の桑の葉を打つ暗き浄土

午前零時夜長の闇の煮詰まりぬ

2006年9月13日 樅の木に静かに降るよ秋の雨
2006年9月14日 釣船草遠くをキリストが歩く      

秋桜に般若顔の男と風

白木槿に白蝶飛べば釈迦も悟る

2006年9月15日 茗荷でも一緒に食おう山頭火

天高く世の中心のごと茄子光る

コスモスは種に湧然する女者達々    
  註 「湧然する女者達々」は棟方志功の作品名

2006年9月17日 秋天や妻は鋸ひいている

白蝶に白猫ジャンプ秋の景

2006年9月18日 朝焼の露の大地に人間尿

溝蕎麦の近景横から一茶の声      

妻留守なりしんしんと残る虫

2006年9月20日 こんにちわ秋晴れ久しぶり

風こすもす光コスモス色秋桜

2006年9月23日 正直者一茶道来て赤のまま
2006年9月24日 光る秋一日薪を切っていた
2006年9月28日 虚無僧に秋の鴉の声甘し
2006年9月30日 木の実落つ燦燦と彼等喜ぶ
2006年10月3日 赤まんま老衰の義母と無邪気な妻
2006年10月6日 秋雨の音符転がる栗落ちる
2006年10月7日 鰯雲眼底いまだ罅割れず

健やかな秋の黒雲竜馬が行く

2006年10月8日 虹は入り口秋の山辺に掛かるかな
2006年10月9日 岳は今爺の顔して既に雪

婆独り言つ「きれいなお月様だわい」

2006年10月10日 蜘蛛の糸殊に光りて秋の質
2006年10月11日 秋の朝小さな頭蓋掌で包む

静けさの虫の音一つ厠かな

2006年10月14日 素肌の色の大豆こぼれる多感かな
2006年10月16日 冷まじや子猫鼠を獲り続ける

倒れ臥す秋桜すっかり透明だ

2006年10月18日 みずうみと母呟くや創世記      
2006年10月19日 花束愛(かな)し暗くて長いトンネルなり
2006年10月20日 定住や朝日子抱く鰯雲       
2006年10月23日 晩秋や蜘蛛囲を出でて帰らざる

黄菊あり白菊もある小庭かな

2006年10月25日 風樹もみじあさひのページを飾るかな

小庭なる黄菊にせまる青い空

2006年10月27日 ただ単に生きてる如く秋深し 

秋深く眼つむりて薯を食む

2006年10月28日 蜘蛛去りて蜘蛛の囲残り秋は行く
2006年10月29日 狂疾の息子今年も秋は行く

狂疾の息子あたりは菊の花

2006年10月30日 虚栗落ちて溜りぬ若きペテロ    
2006年10月31日 黙想のイエス一本の草紅葉     
2006年11月2日 辛夷がこんなに黄葉するとは思わなかった 

義母と妻双蝶のよう落ちてゆく

2006年11月3日 青空やすくっと大根引く
2006年11月4日 紅葉かつ散る回遊魚のごと車車
2006年11月6日 黄葉のゆたかを騒ぐ鴉かな
2006年11月7日 朝時雨その後山里静かかな
2006年11月8日 音楽や霜のさ庭に日が昇る
2006年11月9日 黎明の木のシルエット自死の友
2006年11月11日 命赤き紅葉の中を亡友許(ともがり)
2006年11月16日 ゴルゴタの丘の朝焼だこれは

ゴルゴタの丘の朝焼木よ匂え

2006年11月19日 残菊や雨に笑って土に臥す
2006年11月22日

安曇病院のデイケア俳句会に行く

霜の道ほそぼそ来れば朝日かな

南西に進路をとれば一時霧

朝霧の中の病院毛物めく

木の枝の交差美し冬の山

2006年11月24日 焼薯のごろんと甘き不思議かな

突然と歌い出す妻十一月

2006年11月26日 認知症の母に冬芽のみ光る
2006年11月27日 彼の死後葎の景の懐かしい
2006年11月28日 冬に向えば白雲われを照らすかな
2006年11月30日 木蓮の冬芽ざわざわした会話
2006年12月1日 うすい月わが存在のおぼつかな
2006年12月2日 枯山や細々と呼ぶしかし呼ぶ

枯山に雪やさぶかろさびしかろ   

夢の兜太と神話の話して笑う

2006年12月4日 冬の水冬山の体液だこれは     
2006年12月7日 「負けるが勝ち組」と嘯いて春野行く

裏山は象の頭の如き枯

2006年12月8日 冬の霧裏山体開かずなり
2006年12月9日 今生は悲しく在れよ冬の雨
2006年12月10日 老人は古米を呉れて赭ら顔
2006年12月11日 山蛾飛ぶ怒りの裏に欲のあり
2006年12月12日 われは呼ぶ映る枯木の韻の奥
2006年12月13日 冬の朝焼一茶に飯の湯気香る

白猫へどっと朝日や霜の朝

2006年12月15日 天気良ければ枯葦のさわさわ 
2006年12月17日 いつも見ている冬河との遭遇
2006年12月18日 俳句は門覗き込んだらひゅう吹雪く
2006年12月19日 洗いざらしのシャツになりたい寒鴉

やわらかく布団干す日や年の暮

2006年12月23日 冬陽炎をはさんで野良猫(のら)と我
2006年12月24日 垂水せる冬山の道ほのかな陽
2006年12月26日
夢中吟
人間の死が喰いたいと冬の山
2006年12月28日 北風のカーテンからの沈黙      
2006年12月30日 北風と犬光の河も流れるよ
2006年12月31日 陽の冬川万感ありてしかも流れる

 俳諧寺