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空音の日句帖

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2009年1月1日 足跡を雪に残して老子去る
雪山の腹から雉子の飛び出しぬ
言葉失くして言霊得たり雪の山
2009年1月3日 良寛さん奇麗な雪の斜面です
初小便海洋深層水の響
初放屁二番三番めでたしや
連れ犬のうんち待つ間の淑気かな
2009年1月10日 雪道を薬缶のごとく歩きけり
2009年1月19日 寒灯ひとつ一休宗純葬式へ
チチヨハハヨと明るい障子引っ掻く虫
2009年1月24日 美味し沢庵いのちを惜しむことはない
コーヒー缶をペコペコ鳴らす冬晴れに
2009年1月25日 グェーグェーとトイレペーパー引き出され
2009年1月29日 旧約のごとし生活から見ゆ雪の山
2009年1月31日 木の根開く白隠禅師の吃逆
2009年2月2日 排便後嗚呼と洩れるは自然なり
2009年2月3日 沢庵のあれよ純情物語
2009年2月5日 昔も今も妻とのさすらいカレー味
2009年2月6日 好物は後に食べる娘(こ)春隣り
2009年2月7日 垂水光るラスコーリニコフの春なれ
2009年2月8日 談合の如くでもある猫の恋
2009年2月9日 Yes we are 雪解の峡の春一番
2009年2月12日 犬と行けり残雪の峡に叫ぶため
2009年2月13日 残雪行く細き老身幽体かな
2009年2月15日 荒海や飯に横たう目刺干し
2009年2月16日 明治維新の春光帯びしガラス器達
ラスコーリニコフのソーニャ雪解の土手の福寿草
2009年2月19日 顎少し上向きにして雨水という
2009年2月20日 多喜二忌や絵の具の水に薄氷
2009年2月22日 ホームレスのパン裂く手つきガリラヤの風
2009年2月26日 春宵の墨絵の里の一つ星
2009年3月1日 妻の電話長し雪解の道を行くごとく
2009年3月2日 さすらいのごとく三斤パンを噛りしこと
2009年3月8日 潮だまりの貝のふつふつ春の昼寝
孤独死あり赤風船の空の下
2009年3月11日 K.550 別れの雪が降りしきる
2009年3月15日 斑雪山あれは太母のはげ頭
白猫や春泥付けてこんばんわあ
2009年3月16日 暗愚なる沼の向こうに光る雲
2009年3月17日 陽炎の小径に滲む荘子かな
2009年3月22日 これは春の水で描かれた夕陽だな
2009年3月23日 群唱のレクイエム群生の福寿草
2009年3月30日 まず見えて寄れば音する春の水
2009年4月2日 一日四月馬鹿みたいな絵ができた
四月二日朝は一面雪だった
2009年4月8日 ぼくが死んだら死の不在と月光が在った
2009年4月9日 無くした鎌が春の畑で拗ねていた
2009年4月10日 屍一つもどうにもならぬよ桜花
2009年4月11日 たくさんの石鹸玉たくさんの宇宙
2009年4月15日 猫眠るわが服愛おしげに抱いて
2009年4月18日 どどっどど踊る黒幹花や花や
2009年4月20日 風信子咲くこの空でかすぎる
囀や吊り橋渡りゆく雲水
バナナの皮畑に放れば涅槃する
2009年4月24日 みぎななめうしろに旭耕しなり
祖霊かな廃校に咲く遅桜
2009年4月26日 山寺の和尚は何処葱坊主
野遊びへ和尚出かけて行ったまま
山鳩の空空虚虚(くっくうこっこう)あたたかし
2009年5月3日 手塚治虫の笑う眼鏡の奥の眼(まなこ)
ものの芽やアダムはイヴに言い寄りぬ
2009年5月7日 禿頭に雨やさしかり囀りも
2009年5月8日 囀りのしあわせごっこ果てしなし
2009年5月10日 亀虫等わんわん舞うよ聖五月
独活長けて愚かなること山のごとし
2009年5月13日 陽にそよぐ若葉若葉よ「死ぬ」なんて
2009年5月16日 しばらくは草にこもりぬ夏の初め
滝までの道歩くかな草持ちて
2009年5月17日 雨明るく花苺咲く父母の国
考え過ぎの君に捧げん韮雑炊
総入れ歯なのに歯痛と言いし薄暑かな
2009年5月21日 新樹にも陰ありとみて落ち着きぬ
新樹には陰なしとせばさ迷える
2009年5月24日 「何だこりゃ」パソコン調べる蜂である
2009年5月27日 蜘蛛の囲のひっつきやすき死の怖れ
ああアカシア月日大きなリングかな
2009年5月30日 スーパーの妻待つ夕焼雲を渡るよう
2009年5月31日 落日の烈しく照らす縊死の小屋
2009年6月2日 肉体も樹も濃くなりぬ水無月は
2009年6月3日 棲みついて薄暑嬉しや山の国
顔の前面新樹見ており嗅いでおり
猫にさわればあっあっ鳴くよ生きものなり
2009年6月4日 初苺見たらわあーって言いなさい
2009年6月8日 少年僧溌剌とあり柿若葉
毛猫白猫毛皮の中はピンク色
すり寄ったりそっぽ向いたり毛猫かな
毛猫けだもの日がな一日ぶらぶらと
毛猫けだもの跳んで蝶々を掴まんと
2009年6月10日 死の床の兄
父よ父よと夜を渡るや不如帰

2009年6月11日 麦の花ほろほろ咲けり兄は逝けり
2009年6月11日 梅雨空にきれいに鳴りぬ兄の骨
2009年6月21日 野の肉の傷み吾に木苺に
2009年6月24日 緑夜煌々と手を洗うな
2009年6月25日 夢裡の孤児笑いつづけて明け易し
2009年7月1日 あどけなや狂女の笑い栗の花
2009年7月4日 紙魚が棲む牧野日本植物図鑑
七月四日(土曜日)朝八時半〜十一時頃まで、部落の草刈り。
2009年7月6日 雨の合間に麦刈り初め。
2009年7月7日 咲き満てば栗老大樹思想めく
2009年7月8日 涅槃せよと麦刈りの雨激しかり
2009年7月9日 雨の中。浦梨(散骨場予定地)草刈り。桜苗は六本のうち三本が元気、あと三本も生きていることは生きている。
2009年7月11日 麦刈りの続き。このところずっと例の冷えのような腹痛。
2009年7月12日 ジャガイモ掘り。
2009年7月13日 雨。例の腹痛。
2009年7月14日 麦刈り終了。ジャガイモ掘り終了。
2009年7月15日 浮き沈む蝶女史ラベンダーの渚
煮詰るように蝉鳴きだすよ槐の空
草掻き等。
2009年7月16日 暑い日だった。草掻き、草刈り等。
2009年7月17日 雨降ったり止んだり。草刈り。
2009年7月19日 夏の朝鳥声は散骨の明るさ
雨。一日ぐたぐた。
2009年7月22日 日食や砂上のタデ科植物群
安曇病院デイケアー俳句会。午後は池田町広津平畑で農作業。平畑の家に泊る。
2009年7月23日 この日一日平畑で農作業。ニンジン畑、サツマイモ畑、葱畑の手入れ。
日食やトカラ列島(とから)の竹林に蹠(あし)を切る
困るなあ蝮を頼むと言われても
2009年7月24日 昨日の平畑での農作業の疲れで一日ぐうたら。
2009年7月25日 大豆畑の猿網の為の杭を打つ。
2009年7月26日 兄の納骨為に実家のある高崎へ。久しぶり(約三十年ぶり)にボブに会う。
2009年7月27日 一日雨。梅雨は終らない。
2009年7月29日 昨日も雨。今日も雨。明日も雨らしい。雨雨雨。
2009年7月30日 肥汲み。もちろん電動ポンプ
2009年7月31日 午前中、苺畑の草取り。午後は雨。晴耕雨読とかや。
2009年8月1日 裾花川(すそばな)の梅雨の川音抱いて寝ん
2009年8月2日 川音来る南瓜畑の私に
2009年8月3日 いのちの赤 兜太句集『日常』に
雨ばかりで出来なかった麦の脱穀をした。大層疲れた。
2009年8月4日 日がのぼる いのちの赤の日が昇る
野萱草 命てんてん朱(あか)てんてん
凭れ合う鍬と老婆と花萱草
草笛に少年に黙のありにけり
漂着感厠に沈む晩夏光
2009年8月5日 ねんころり母の背で見し遠花火
メグがおそらく死んだ。多分交通事故で。
2009年8月6日 このところ疲れの中にかなかなかな
2009年8月8日 白菜播く。長ねぎ播く。
2009年8月15日 大豆畑に猿よけの網をかける。
2009年8月18日 はぐれ子熊少しためらい去りにけり
はぐれ子熊孤独の黒のままで去る
はぐれ子熊可愛いと見しが孤独なる
大根、蕪、菜っ葉類播く
2009年8月19日 脳梗塞の疑いということで小林脳神経科病院に一泊入院。結果は良性発作性頭位変換性眩暈症ということであった。
眩暈得て虻のごとくに地に落ちる
2009年8月27日 白菜とニンニクを植える。
2009年8月31日 八月尽隣の犬と抱き合えば
2009年9月1日 キャベツ播く。
2009年9月2日 ほうれん草、蕪、菜っ葉など播く。
新月やアラブ歌姫眉上げる
2009年9月5日 野沢菜播く。
2009年9月11日 野沢菜、雪菜播く。
蝿叩き秋陰あれば海想う
2009年9月21日 ペンキ塗る寝不足野郎昼の虫
2009年9月22日 昼も夜も鳴きつづく虫読経だよ
2009年9月26日 弁当だぜ赤い溝蕎麦白い溝蕎麦
2009年9月30日 麦播く。
2009年10月1日 一里塚越えた向うに狐火や
青蜜柑妻の香りといっしょくた
2009年10月7日 秋草のごとき堆積反故の山
2009年10月12日 天地無したわわたわわと林檎の木
日が照るや秋の蒲公英静かなり
陽の秋や隣の婆と葱の話
山の未だ星にならない残る虫
2009年10月22日 出会いけり露にまぶれし朝日子と
2009年10月29日 霧に朝日じたばたすれば始まるや
7℃高原紅葉黄葉かな
鴉スキップ紅葉高原悠悠たり
光の秋野シートベルトの外れけり
2009年10月31日 孤島のようしかし砂つぶは消えない
2009年11月6日 朝日あたる霜の家あり我が生あり
2009年11月10日 牛蒡掘る牛蒡のごとき老人なり
はらからを掘るごとくなり牛蒡掘る
牛蒡掘る男根のごと憎きもの
牛蒡掘る天上天下舞うように
2009年11月17日 離れゆく体温初冬の道に妻送る
2009年11月20日 妻こぼれ来る初冬(はつふゆ)の駅舎から
2009年11月25日 不確かな枯れです父よ一つ星よ
2009年11月26日 「道」というコーヒー店あり枯野道
2009年12月1日 霜いちめん鳥のことばのそのかけら
小春日や光る菱形描きたし
2009年12月8日 起きたくない眠っていたい冬なれば
北風をゆくまた北風をゆく薄日の中
怒ってしまった霜に星々光るとき
2009年12月9日 うんちしてあーと吐息や霜の朝
凍て山の谿に尿する情(なさけ)かな
2009年12月20日 豪雪地帯ドストエフスキーを借りにゆく
尿てんてんいのち静かな雪の上
2009年12月26日 巡礼や谷間雪暗ゆきどまり
雪暗の谷間〈悲〉は不在だった
 







俳諧寺